女は、自分が差し出した黒く太い帯で男が目隠しをしたのを確かめて、車を再発進させた。
まもなく車を止め、
「さあ、着いたわ。
頼むわね、カンちゃん。
実はね、私、さるお方にお願いの筋があって、今回のことは、こちらが先に少し貸しを作るということだから……どんなことがあっても、ビクつかないでね、カンちゃん。
ねぇ、アッチは大丈夫?」
そう言いながら、女は、小山のような躯を男の方ににじり寄せ、股間へと手を伸ばした。
そこはすでに鋼鉄のようだ。
女は興奮の叫び声を上げた。
「ワッ、ワッ、す、すごいわね、ああ、大丈夫、大丈夫よ。
よかったぁ……ねぇ、お願いがあるの。
さるお方をご満足させて、もし時間が余ったら、ねぇ、私にも、して。
それって、規約違反じゃないわよね?」
「規定の時間内なら、大丈夫です」
目隠しをした男は、前を向いたまま言った。
女はますます興奮し、男の首に両手を掛けた。
「じゃ、絶対そうして。
ああ、半分あきらめていたの……今日はムリじゃないかって。
ホントに嬉しい。
そうと決まったら、早く行きましょう、あ、あなた目隠ししてるのよね。
待ってて、そちらに行くわ。
手を引いて連れて行ってあげる」
声を弾ませて、女はシートベルトを外しにかかった。
テーブルに置かれた静物に、ガラス張りの天井から朝の光が降り注いでいる。
絵筆をパレットと親指の間に挟んだ今日子(くみこ)は、イーゼルに片手を添えて、カンバスの位置がずれているのを直した。
このアトリエには家政婦が入らないはずなのに、なぜずれてしまったのか。
(そういえば……)
思い当たる節があった。
「落ち着きなさいよ、この年齢(とし)になって」
周りの物がガタガタと揺れる中、いつもと同じ口調で今日子は言った。