化粧はしていない

年のころは30ちょっとだろうか、ぽろぽろ涙を流している。

左手の薬指に指輪をしている。

主婦だろうか。

「ごめん、ハンカチ持ってなくて」

カズヤは持っていたティッシュで女の涙を拭いてやった。

「うっ、うっ」

女はしがみついてきた。

どうしよう、このまま放ってはおけないよな。

もしものことがあったらヤバイよ。

「とにかくさ、落ちついてよ。

オレでよかったら話聞くからさ」

「はい」

とは言ったものの、車の往来が激しく、静かに話をできそうな場所なんて周りにない。

「ファミレスもないのかよ。

すげえ田舎だよな」

と、いやに風景に合わないラブホテルが目に入った。

「仕方ない。

あそこで話そうよ。

いや、何するわけじゃないから」

女はコクンとうなずいた。

うわぁ、いつからあるんだよ、このホテル。

「ごめんなさいね。

心配させて」

「で、どうして泣いてたの?いや、その前に名前聞かせてよ。

オレはカズヤ」

カズヤは女の顔を真正面から見た。

化粧はしていない。

泣いているせいか、瞳が潤んで、鼻が赤くなっている。

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