ブルブルブル……
またかよっと思いつつ、カズヤは胸ポケットに入っている携帯を取る。
『夏休み終わったらまたお店行くからね。
早く帰ってきてね』
客のエミからのメールだ。
『エミちゃん、絶対だよ!オレ待ってるから!』
と返信し、はぁ~とため息をつく。
今は新幹線の中。
せっかくの夏休みだというのに、数分ごとに携帯が鳴る。
カズヤは東京でホストをしている。
地方から出てきて2年、店の月間トップになることも多くなり、今は主任と呼ばれるようになった。
10人入っても、1ヶ月後に残るのは1人いるかいないかという厳しい世界。
いつか新宿の有名な店に移り、そこでトップになり、将来は自分の店を持ちたいという夢を持っている。
客から毎日メールがガンガン入り、自分の時間なんてないようなものだ。
しかし、お客あってこそのホストである。
また、カズヤからも客へメールを出しまくる。
メールも大切な営業の一つなのだ。
今日から3日間の夏休みで、帰省するところだ。
普段は日曜日しか休みがないカズヤにとって、3日間の貴重な休みである。
早くダチに会いてえなぁ。
新幹線を降り、在来線に乗り換えた。
実家の最寄り駅より2つほど手前に、花の名前のつく綺麗な名前の駅がある。
カズヤは何となくそこの駅で降りたくなった。
実家までぶらぶら歩いて帰るのもいいだろう。
その駅を降りて5分ぐらい歩いたところに、大きな橋が架かっている。
橋を渡っている途中、泣きながら川を見ている女が目に入った。
何してんだろうとカズヤが思ったそのとき、女の体がふらりと前のめりになった。
「うわっ」
カズヤは慌てて駆け寄り、女の体を支えた。
「何してんだよ!危ないだろ!」
「ごめん…なさい」