ハンドルを握る女

昔から栄えた町では、大通りから一歩入るとすぐに、細い道が入り組んでいる一角に迷い込んでしまうものだ。

道の両側には塀が張り巡らされ、容易に中をのぞくことはできない。

もっとも、その塀にも高いものあり、低いものあり、昔ながらのものもあり、新しく造られたものもある。

いずれも形は不揃いながら、大きな庭と、大きな邸宅を囲んでいる。

M××市にも、そういった閑静な高級住宅地があり、周辺の小さな家に住む人々は、その一角をまとめて「お屋敷」と呼んでいた。

ちょっとした高台にあるので、そこへ行くにはどこから入るにしても、坂道を上らなければならない。

少し前まで、小さな家々の子どもたちは、近くにある小さな公園での遊びに飽きると、よく「お屋敷探検」をした。

階段状になっている坂道なら車が通らないのでそこから「お屋敷」に入り、細いくねくねした道で遊んだ。

午後から夕方にかけて、少々騒いでも、文句を言われるようなことはなかった。

そんな子どもたちが「お屋敷」の住人と遭遇するということは、滅多になかった。

子どもたちの間では、昔、塀を乗り越えて入ったきり、帰ってこなかった者がいるという伝説がまことしやかに流れていた。

時たま、道草をする小中学生が道路を歩いているくらいのもので、あとは、一方通行の道を車が通るだけである。

「お屋敷」の住人関係の高級車が通るときは、細い道が車でふさがれてしまい、歩行者がすれ違う余地もない。

だから朝夕は徒歩で「お屋敷」に行くものではないとされたり、「お屋敷」に通じる坂道の角にある古い商店の主が客相手に

「オレは車を見ただけで『お屋敷』に住んでいる人間の格がわかるよ。

よく見る高級車で、車体の角に傷を付けたまま走っているのは新参者か、よほどカネに困っているヤツだ。

『お屋敷』に慣れた運転手なら狭い道でも絶対にキズを付けないし、仮に付けたとしても、本当の金持ちならすぐ買い換えるしな」

と問わず語りに話したりした。

その日の朝も、ちょうどその店の角を曲がって「お屋敷」の方へ上っていく車があった。

高級車ではない。

そして、ハンドルを握る女は、饒舌だった。

「さあ、もうすぐよ。

でも、ここからが難しいの。

たいていの人は、地図を書いてもらっても迷うわね。

とにかく、一方通行ばかりで、変な道に行くと、目的地に着けないままとんでもない方向に出てしまって、半日周囲だけをグルグル回りしていた、なんて人を私何人も知ってるの……

まあ、そんな話はともかく、その、そうね、名前は言えないから、『さるお方』としておきましょうか。

そのさるお方はね、とにかく、お金も美貌も才能もなんでももっていらっしゃる方なのね。

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